13回信州神学研究会

2022年5月27日 日本キリスト改革派長野佐久伝道所)

講演「聖書が教える結婚」

 牧野有子(長野佐久伝道所会員)

 

発表の二つの趣旨

Ash, Christopher. Sex in the Service of God. Nottingham: Inter-Varsity Press, 2003.

Ash, Christopher. Married for God: Making your marriage the best it can be. Nottingham: Inter-Varsity Press, 2007.

『聖書が教える結婚と性』(いのちのことば社より2023年5月に発売)

目次

序章:神中心

1章:トラウマと恵み

2章:目的をもって結婚する

3章:子どもを持つ意味とは?

4章:セックスと愛情

5章:神が教える結婚の型

6章:結婚制度の目的どうして同棲では駄目なのか

7章:独身という選択

8章:結婚の本質

まとめ:大いなる招き

・第4章「セックスと愛情」を中心にした本書の紹介

・フェミニスト神学による補足の試み

・改革派神学とフェミニスト神学

 

 

神中心の結婚観

・神は私たちがより良い人生の手助けを歩むために存在している。教会で時にそのような印象を抱くことがあります。結婚の手助けをしてくれるから、神に助けを求めるのだ。神は私の人生のコーチだ。あとはほんのちょっとの運と後押しがあれば、そして祈りとわずかばかりの奉仕を通して神に『お返し』すれば、神は全力で私の夢をかなえてくださる。私の目標を達成してくださる。幸せで満足いく結婚にあずからせてくださる。

・「神は何を求めておられるのか」に照準を合わせる

・セックスを偶像化する現代社会過去のトラウマと贖いの恵み

・私たちの心に宿る聖霊は私たちを変えようと力強く働く(テトス21114

 

教会の伝統的な結婚の目的

・子どもを授かること、結婚関係そのもの、性的堕落の回避

・全体に共通する神の視点創世記

1.   創世記12631

・「良い」「極めて良い」男と女の創造

2631節でなされる四つの人類描写

1.人は神にかたどって造られた。動植物とは一線を画す独自の尊厳を与えられた。

2.独自の特権を与えられた。思慮深く地球を管理する男女が増えよとの教え。

3.人類は男と女に創造された。男性らしさ・女性らしさを持って神の創造された世を守り、管理する責任を与えられた。

4.人類は創造主である神を喜ぶために創造された。感謝をもって神に頼り、喜びをもって神の命令に従う。

・本書の銘「神にお仕えするセックス」セックスにおけるコミュニケーションと信仰を種として成長し、発展する結婚全体を簡潔に表す。愛情、友情、協調、歓喜、そして信仰が結婚の隅々にまで行き届いた状態を、簡潔にセックスと呼ぶ。最善の結婚とはつまり、愛と喜びに満ちて神にお仕えすること。この観点に立って夫婦は周囲を見渡し、神が創造された世界にどう関わっていくのかを共に模索する。

 

2.   創世記21525

 ・18節「人が独りでいるのは良くない。神に合う助ける者を造ろう」

 ・「独り」=「寂しい」?

・神は寂しさを解消するという「個人的必要」を満たすために結婚という制度を設けられたのではない

・エバはアダムと共に仕事に携わる者として、また平等な存在として創造された

・セックスの歓喜結婚の目的:目的の共有、つまり志を同じくすることと、夫婦という枠組みを超える課題に取り組み、助け合うことと関係している神が創造された世界には抜かりない配慮と丁寧な仕事が不可欠

独身

 ・社会・教会におけるネガティブなイメージ

 ・マタイ191112 イエスは言われた。「だれもがこの言葉を受け入れるのではなく、恵まれた者だけである。結婚できないように生まれついた者、人から結婚できないようにされた者もいるが、天の国のために結婚しない者もいる。これを受け入れることのできる人は受け入れなさい。」

 ・「者」「宦官」

 ・「独りでいるのが楽」という考えとトラウマ

 ・「わたしはあなたがたを友と呼ぶ(ヨハネ1515)。」「わたしは主。あなたを癒す者である(出エジプト1526)。」

 ・渡辺信夫「キリストのリアリティ」

 ・教会の独身者に対する態度

 

セックスと愛情

 ・セックスと繁殖 

 ・アウグスティヌスのセックス観

 ・メアリー・デイリーの指摘「教父たちの頭の中では、女性と性的なことは同一視されていた。性についての彼らの恐怖は、女性への恐怖でもあった。彼らが、この女性嫌悪の態度の中に含まれる、投影されたメカニズムを認識していたという証拠はない。実際には、男性の性に対する罪悪感と性的刺戟や暗示に対する過度の敏感さが『他者』、すなわち罪ある性に転嫁されたのである。」

 ・聖書はセックスの魅力、美しさ、欲求そして歓喜を認め、世界の妥当な、ありのままの一部として受け入れている

 ・聖書の神妻との親密で、喜びに満ちた関係を情熱的に焦がれる夫として神は描かれる(詩編4512

 ・イザヤ書625「花婿が花嫁を喜びするように/あなたの神はあなたを喜びとされる。」聖書が結婚におけるセックスを積極的に肯定しているからこそ可能な大胆な比喩

 ・旧約聖書が描くセックス

コヘレトの言葉99:愛する妻との生活を楽しむ賢人

創世記268:イサクとリベカの戯れ

創世記2930:ラケルを七年間待ち続けるヤコブ

箴言51819:夫が妻と楽しむ様子

 ・セックスの過大評価 「純粋な関係」「自らに仕えるセックス」

 ・セックスの軽視 コリントの信徒への手紙一712「そちらから書いてよこしたことについて言えば、男は女に触れない方がよい。しかし、みだらな行いを避けるために、男はめいめい自分の妻を持ち、また女はめいめい自分の夫を持ちなさい。」

 ・パウロの主張「夫婦の権限という範疇において性的関係を生き生きと保ち続けよ」

 ・イエスのスキンシップと癒し マルコ822

 ・どの世代にも共通する結婚の原則:互いの体に対して責任を負っている。出来る限りの愛情と共感を与え合う。

 

「神にお仕えするセックス」が周囲に与える好影響

 ・ご自分の民イスラエルに対する神の愛

 ・ホセア書 

ホセアの妻ゴメル

1.    ゴメルは結婚後に姦淫行為を行った。

2.    ゴメルは神殿娼婦であった。

3.    ゴメルは宗教的姦淫(異教礼拝)の女であった。

4.    ゴメルは結婚前から姦淫の女であった。

・ホセア書12「主がホセアに語られたことの初め。主はホセアに言われた。『行け、淫行の女をめとり/淫行による子らを受け入れよ。/この国は主から離れ、淫行にふけっているからだ。』

21617「それゆえ、わたしは彼女をいざなって/荒れ野に導き、その心に語りかけよう。/そのところで、わたしはぶどう園(ぞの)を与え/アコル(苦悩)の谷を希望の門として与える。」

・この情熱に満ちた愛の関係で描かれる外に開かれた視点

・「神の結婚」を反映する結婚が夫婦に求められる

 

・雅歌

 ・二つの層鑑賞力と詩的イメージ

 ・二つのテーマ

1.                春の訪れと秋の実り 712「恋しい人よ、来てください/野に出ましょう/コフェルの花房のもとで夜を過ごしましょう。」

2.                王の統治 316「見よ、ソロモンの輿を。輿をになう六十人の有志、イスラエルの精鋭。」

  ・困窮する世界に活気を与える、そのきっかけを生むようなセックスの喜び。不義・不正にあえぐ世界に正義をもたらす王の統治。

・信仰に根差した愛が結婚の中心にあって初めて、その愛は他者に向かって溢れ出す

・「神にお仕えするセックス」セックスが結婚のしかるべき場所に置かれた時、セックスは生き生きと輝く。セックスは本来そのようなものとして創造された。

 

フェミニスト神学による補足

  ・日本の少子化・晩婚化

  ・未婚女性が結婚後に望むライフスタイル専業主婦から家事と仕事の両立に変化

・日本女性に従来求められてきた伝統的な「妻像・母親像」を拒否する女性たち

・レティ・M.ラッセル「女性たちは、抑圧的で性差別のある宗教的伝統を拒否し、解放を求める声をあげている。これらの宗教的伝統によって、女性は社会的にも、教会の中でも、個人的にも劣っているときめつけられている。女性たちは、自分たちの伝統を、より深く、徹底的に調べ、教会の『父たち』の権威について疑問を投げかけ、これまで、教会の『母たち』が教会の生活と伝道に寄与してきた、隠された事実を明らかにしようとしている。」

・サラ・グリムケが1837年『両性の平等と女性の置かれた状況に関する書簡』で女性の権利という視点からひもといた創世記127→男と女が神の(かたち)imago dei)を共有したことは原初の創造において女性が男性と平等であった証拠である。原初的創造において女性と男性の両方に自然に対する支配権が与えられた。けれども男性は女性に対する支配権を与えられた事実はなく、父権制度は女性に与えられていた地位を奪うものであって、神の最初の計画からの後退である。

 ・女性が結婚を祝福とは思えない日本の状況:ワンオペ育児、性別役割分業、男尊女卑

 ・フェミニスト神学と「女らしさ」

  ・聖書学によるフェミニスト神学の限界

 ・日本キリスト改革派とフェミニスト神学

 ・「男らしさのコスト(the cost of masculinity)」「男性は地位や特権と引き換えに、狭い男らしさの定義に合致するために浅い人間関係,不健康,短命という形で多大なコストを払いがちである。」

 ・「らしさ」とは?

 ・「自分らしさ」「人間らしさ」から締め出されてきた女性たち→D.H.ローレンス

 

聖書が教える服従

・妻は主イエス・キリストに仕えるようにとパウロは語る。服従は大きく誤解されている。

・妻は委縮する召使のようであれ、いることは期待されるが意見を求められてはいない。

言われたわれたことは何でもするためにせわしなく働く。家庭では最低の仕事ばかり

命じられ、家庭を出て働くことは許されない。妻の服従はこのようなものだ。

・結婚を駄目にする妻:玄関マットのような妻 威張り散らす妻

・結婚を駄目にする夫:強権的な夫 家庭への責任を放棄する夫

「大きなお世話なのよ!私に仕え、愛する、それがあなたの召しでしょう。私を愛してくださる神への自由な応答として私のあなたへの服従があるのよ。仕えるかどうかは私次第なの。あなたが強制することではない!」

・男女間での反応のギャップフェミニスト神学の必要性

・イエスと女たちの関係「「女たちがかいばおけの傍らにおり、また、十字架の傍らにいたことは、何ら不思議ではないであろう。女たちは、これまでこのような男を知らなかった今日までも、このような人は他にいない。彼は預言者であり、教師であり、決して女たちにうるさく説教するようなことはなかった。へつらったり、おだてたり、恩着せがましかったりすることもなかった・・・福音書全体を通して、行いや説教や譬え話にみられる、その痛烈さには、女のいやらしさなどというものはみじんも引き合いに出されていないのである。イエスのことばや行為からは、女の本姓には『おかしい』ところがあるなどという考え方は出てこないであろう。」

 

・聖書が教える服従

1.   エフェソの信徒への手紙52233

・パウロの教えは非対称の関係に向けられている

全てのクリスチャンが適切な、妥当な場面で、積極的かつ自発的に仕えよと呼びかけられている

・父なる神に進んで仕えるのはまずもってキリスト自身(コリント一152428

・キリストに倣い、決して強制されるのではなく、キリストに贖っていただいた喜びから夫に仕えるのが「神に仕えるセックス」を生きる妻の姿。妻の夫に対する服従は十字架の形をしている。

・夫への命令(妻への命令40語。夫への命令115語)

・夫への問い「キリストはどのように教会と接しているのか」どんな犠牲を払ってでも妻を愛せ。夫に示される結婚の形もまた十字架の形と同じ。

C.Sルイス「自分の結婚は何にもまして十字架の形に近いと夫は思う。そのような結婚において妻はふんだんに与えられ、捧げることは少ない。そしてそういった妻は誰よりも愛することを求められない。」

 

2.   コロサイの信徒への手紙31819

・妻を理解する夫の努力

・女性の身体的・精神的リズム

・妻への尊敬

・妨げられる祈り

・周囲に与える影響「神を見たことなどない。世界を眺めて一体神は善なのか悪なのかと思うと時もある。だけど神によって男女がこれほど互いを愛せるなんて。病める時も、健やかなる時も犠牲を伴うこれほどの誠実さを夫が見せるなんて。そりゃあ素晴らしい神に決まっている。妻が夫に仕える姿もまた何とも美しい。試練の中にあってなおなんと魅力的で、優しいのだろう。素晴らしい神に間違いない。」

 

本書のまとめ

 ・「神にお仕えするセックス」の中心にある信仰

 ・決して契約を破らぬ忍耐強い神の愛にこそ触れ、与ることが何よりも大切

 ・必要なのは「上から目線」の道徳教育ではない。情熱をもって愛される神の、その忍耐強い愛に私たちが心を開き、明け渡すこと。

発表のまとめ

・「フェミニスト神学の視点をもったクリスチャン」とはどんなクリスチャンか。

抑圧された日本女性の経験を学び、女性の闘いに神がいかに関わっているかと問う。抑圧の社会的・経済的・歴史的・教会的諸要因を理解する。

日本社会の周辺に押しやられている女性の視点に立って、聖書と教会との諸伝統を見直す。

その伝統がどのような方法で再解釈・再構築されるべきかを問う。

その信仰理解に応答して何をなすべきかと自問し、行動に移す。

・改革派の強固な教理罪論・救済論・終末論

・「低い状態にある」日本女性「悲しむ者と共に悲しむ」イエスの姿

・改革派神学と「聖書はセックスの歓喜を認め、結婚を祝福している」と男女共に言える環境の整備信仰者の呼び戻し・クリスチャンホームの増加への期待

 

参考文献

Ash, Christopher. Married for God: Making your marriage the best it can be. Nottingham: Inter-Varsity Press, 2007.

Hartke, Austen. transforming: The Bible & the Lives of Transgender Christians. Louisville: Westminster John Knox Press, 2018.

Hochschild, Arlie Russel. The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling. California: University of California Press, 1983.

Sayer, Dorothy. Are Women Human?. Grand Rapids: Wm. B. Eerdmans Publishing Company, 1971.

WIKISOURCE. Sarah Moore Grimke, Letters on the Equality of The Sexes and the Condition of Woman, 1837. Letters on the Equality of the Sexes, and the Condition of Woman - Wikisource, the free online library (参照20220118)

World Economic Forum. “Global Gender Gap Report 2021”. https://www.weforum.org/reports/global-gender-gap-report (参照2022118日)

鈴木昌(1974)「ホセア書」榊原康夫監修『新聖書注解 旧約4 エレミヤ書マラキ書』いのちのことば社

フィオレンツァ, E.S (1990) 『彼女を記念してフェミニスト神学によるキリスト教起源の再構築』(山口里子訳)日本基督教団出版局

ラッセル, レティ・M(1983)『自由への旅 女性からみた人間の解放』(秋田聖子・奥田暁子・横山杉子訳)新教出版社

多賀太. 男性学・男性性研究の視点と方法:ジェンダーポリティクスの理論的射程の拡張. 国際ジェンダー学会誌. 2019. Vol. 17. p. 828.

男女共同参画局. “衆議院議員総選挙における候補者、当選者に占める女性の割合の推移”. https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h30/ (参照2022119日)

独立行政法人 労働政策研究・研修機構 専業主婦世帯と共働き世帯 19802020”. https://www.mhlw.go.jp/stf/wp/hakusyo/kousei/19/backdata/ (参照2022118日)

内閣府男女共同参画局. “「平成28年社会生活基本調査」の結果から~男性の育児・家事関連時間~”. wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/k_42/pdf/s1-2.pdf(参照2022118日)